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火の国に生きる祈りの社〜肥後国一之宮阿蘇神社、震災と再生の記憶〜

更新日:2025-06-19

神社仏閣

阿蘇の自然とともに

熊本県阿蘇市に鎮座する阿蘇神社は、肥後国一之宮として、古くからこの地に根づいてきた神社です。背後には活火山・阿蘇山がそびえ、社殿の佇まいにも「自然とともに生きる」という思想が色濃く表れています。
主祭神は健磐龍命(たけいわたつのみこと)。神武天皇の孫にあたり、阿蘇の開拓神とされる存在です。阿蘇神社では、この神をはじめとする十二柱が祀られており、長い歴史の中で人々の祈りを受け止め続けてきました。
全国的にも珍しい「横参道」の構造を持つ社殿は、訪れる人々に印象的な体験を与えます。これは旧参勤交代の道に沿ってつくられたもので、阿蘇という風土そのものを象徴するような建築様式といえるでしょう。

歴史に名を刻む肥後国一之宮

阿蘇神社は古代から中世にかけて、地域の信仰と政治の中心でもありました。2025年現在、第92代宮司を務める阿蘇氏の家系は代々この神社を護り、阿蘇大宮司家として全国に名を知られる存在でした。そして時代を超えて多くの人々がこの地に詣で、人生の節目に祈りを捧げてきた場所。それが阿蘇神社です。
その重厚な社殿や復興再建された楼門は、ただ歴史を感じさせるだけではなく、地域の人々の「生きる証」として存在していたのだと思います。現代の私たちにとっても、こうした場があることは心のよりどころとなり、生き方を見つめ直すきっかけを与えてくれます。

熊本地震と喪失の記憶

ところが、2016年の熊本地震はこの神聖な空間にも容赦なく襲いかかりました。震度7の激震によって、阿蘇神社の象徴ともいえる楼門と拝殿が倒壊。本殿も修復が必要な状態になりましたが、倒壊は免れ、人々の心のよりどころはなんとか失わずに残されました。地域の人々にとって、それはまるで心の支柱が崩れたかのような衝撃でした。
神社の倒壊は、ただの建物の損壊ではありません。阿蘇神社は、土地の記憶そのものであり、先祖から受け継いだ祈りの場。災害によってその象徴的な建造物が失われたことは、多くの人にとって言葉では表しきれない深い喪失だったに違いありません。

祈りをつなぐ再建の歩み

それでも、祈りは絶えませんでした。全国から支援の声が届き、地元の人々も立ち上がり、阿蘇神社の再建に向けて尽力しました。熊本地震で倒壊した国指定重要文化財の楼門は、約7年半の歳月をかけて2023年に復旧されました。竣工式典も行われ、多くの参拝者が訪れました。拝殿も、熊本の巨木を多く使う形で再建され、かつての姿を思わせる静かな美しさを取り戻しました。
この再建は、単なる復元ではありません。被災の記憶を忘れずに未来へと受け継いでいく、「生きた神社」としての再生でもあります。かつての姿を懐かしみながら、今この瞬間に生きる私たちの祈りを重ねていくこと。それが再建の本当の意味ではないでしょうか。

阿蘇の風が伝えること

阿蘇山は今も、私たちに自然の大きさと不確かさを教えてくれます。その大地に根を張る阿蘇神社の存在は、祈りと自然との共生を象徴しています。古代の神話から震災という現実まで、人間と自然の物語がここには息づいています。
私たちは、自然の脅威の中にあっても、祈りを持つことで希望を紡ぐことができる―。阿蘇神社は、そう語りかけてくれるようです。そしてこの祈りは、これから先も絶えることなく、風とともにこの地に流れていくのでしょう。

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