満月の夜 タイ・チェンマイのコムローイ祭り

チェンマイ北部。

夕刻、私たちは会場へと

向かっていました。

これから訪れる“光の祭典”を

予感させるように

どこか澄んだ空気が流れていました。

会場に到着すると、入り口には

チェックインゲートが設けられ、

事前に受け取っていたパスを提示して中へと進みます。

ゲートをくぐった瞬間、ふっと空気が変わる。

日常から一歩、目に見えない次元へと

踏み込むような感覚に包まれます。

直前に雨が降り出し雨宿りをするも

開会予定の18時に雨が止む。

広い会場には、円形に配置された祭壇が

静かに佇んでいました。

中央には、仏陀を模した像。

そして高僧の誘導で瞑想。

周囲には若き少年僧たち。

満月と仏陀

ブッダガヤのウエサク祭が示すように、

満月は祈りと悟りの象徴。

この祭壇の前に立つと、

その意味が自然と胸に響いてきます。

やがて夜の帳が降り、

いよいよランタン点火の合図を待つ時間。

11月5日の満月の夜。

今年は特別にスーパームーン。

空を見上げるだけで、自然のエネルギーが

全身に満ちていくようでした。

ランタンに火を灯す瞬間、

誰もが自分と向き合っています。

手放したい想い、

新しく迎えたい願い。

燃える炎がそれらを受け取り、

やさしく温め、空へと導いてくれる。

合図とともに数千のランタンが

一斉に舞い上がると、

まさに「ラプンツェル」の世界そのもの。

夜空に浮かぶ光の群れは、

祈り・手放し・再生・希望。

それぞれの人生がひとつの光となって、

満月に向かって昇っていきます。

灯りが徐々に遠ざかり、

点のように小さくなる頃、

静寂の中に満たされるのは不思議な安心感でした。

過去をそっと手放し、

新しい光を迎え入れる儀式。

この土地で古くから続く祈りを、

自分の人生にもしっかりと刻む時間。

満月の夜に、

祈りは未来の希望へと変わる。

チェンマイのコムローイ祭りは、

それを深く教えてくれる場所でした。